松田理奈さん古典派独占インタビュー
~ニューアルバム「カルメン幻想曲」によせて~

それにしても、一度にこれだけ沢山の作品を演奏されるのはすごいですね。今回のアルバムはいつごろから準備されたのでしょうか?

レコーディングは前からあった話でしたが、曲目を検討して取組んだのは昨年の暮れぐらいからです。録音は2月の予定だったのですが、この時期、腕を痛めてしまって延期せざるを得なくなりました。精神的な事もあったかもしれませんが、12月に楽器をかえて、楽しくて嬉しくて、弾きすぎたのもひとつの原因だったかもしれません。日本でコンサートをこなして、ドイツに戻ってひと段落付いた瞬間、左半身が動かなくなってしまったのです。レコーディングを控えていたギリロフさんには多忙の中、日程を割いていただいていましたので、私は意地でも録音を進めたかったのですが、治療に集中しないと治らないと宣告されまして、やむなく延期となりました。予定されていた演奏会もすべてキャンセルして伸ばさせてもらいました。ジャケット写真だけは2月に済ませました。
あらためて5月に録音を行うことにし、もう一度ギリロフさんに予定を空けて頂くようお願いをしました。多忙にもかかわらず、承諾いただいて本当にうれしかったです。
ピアノのギリロフさんは1972年の全ソビエトピアノコンクールに入賞されていますが、このコンクールはリヒテルやプレトニョフが入賞している屈指のコンクールのようですね。
現在はソロだけでなく、ミッシャ・マイスキーさんの伴奏や、室内楽など幅広く活動されています。
今回CDの録音に際して配慮した点は何かありますでしょうか。
この前コンサートで聴かれた時とCDを聴かれた時と全然違った印象を持たれたのではないかと思います。コンサートと録音では奏法を弾き分けています。特にカルメンはCD向きに作り上げていきたかったのです。自分の意見ですが、家で落ち着いて集中してCDを聴きたいときに、ライヴの時のような、一心に熱を注いだような演奏だと、私の場合は聴くのが少し疲れてしまうように感じるのですね。ですので、CDではより冷静な客観性を重視して、正統的かつ聴きやすく心がけました。1作目のアルバムを終えて学んだことがたくさんあり、今回のアルバムは、それを踏まえて後に残す記録として、きれいに整えたかったのです。直前にはコンサートもなく、このレコーディングに集中できました。もし2月にレコーディングをしていたら、コンサートの合間をぬっての形となりましたので、そう考えると怪我もいい機会を与えてくれたのかもしれません。
今回音響の良いドイツの教会で収録されていますね。
響きが豊かすぎると、音像が遠くなりがちで、それは寂しい感じがしますので、演奏があまり遠くに感じないものがいいと思い、編集の段階で気をつけました。CDを通して聴いたとき、少し近くに感じられるよう、生音とのバランスを調整しました。
ヴァイオリン奏者として演奏しがいのある曲は?
歌もあり技巧もある両方の要素入っている曲(カルメン幻想曲みたいな)ですね。歌の要素が強い短い作品も、一曲一曲作曲家の深い気持ちが入っていますので、BGM風にサラりとだけは仕上げたくないと思っています。きれいに弾けたときはとても弾き甲斐を感じます。
なるほど先日のライヴでのグルックやチャイコフスキーでそれは感じました。実に丁寧に演奏されていました。歌っているというか、話しかけているような、深い印象を受けました。最近楽器をかえられたとのことですが、今使っている楽器について教えてくださいますか。
昨年の12月からガダニーニを使っています。それまではフランスの楽器を使っていました。フランスの楽器も素晴らしいものでしたが、それぞれに特徴が出ていました。イタリアはおおらかな感じがします。一方でフランスは高貴というか繊細な感じが致しました。それぞれに表現の技術も異なるものです。前のアルバムではフランスの楽器での演奏でした。今回のアルバムと音色も違います。
DVDに昨年トッパンホールでの松本和将さんとの共演が少し収録されていましたが、ぴったり息のあった様子に驚きました。
1作目の伴奏も松本さんですし、実は、それ以前からよく知っているお友達でした。彼の、人に対する配慮とか心配りにはいつも感心していました。それは、普段お友達として話している時でも感じるものです。彼の演奏に如実に現れている面だと思います。伴奏系が苦手だと謙遜していますが、入念にリハーサルをして本番に臨むその姿勢には頭が下がります。尊敬しています。
江口玲さんとも共演されるのですね。いろんな方と共演されて、いろいろ刺激になりますね。今後共演したい方や尊敬してらっしゃる方はいらっしゃいますか?
往年のヴァイオリニスト、ヨハンナ・マルツィ(故人)が大好きだったのですが、今一番尊敬しているヴァイオリニストはジュリアン・ラクリンさんです。ジュリアン・ラクリンさんと出会ってから、いろんなものがふっきれて「私こうなりたいんだ!」という想いが湧いてきて、同じステージで同じ音楽を作れたらなと思っています。一緒にお食事する機会があったのですが、親しみやすいお人柄でした。