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ピアニスト「ティル・フェルナー」古典派独占インタビュー

古典派独占インタビュー

Q)フェルナーさんが、音楽(ピアノ)に目覚めたきっかけはなんでしょうか。
ティル・フェルナーさんインタビュー

【フェルナー】 私の両親はプロの演奏家ではありませんでしたが、非常に音楽好きでした。そのような家庭環境がありましたので自然と音楽に興味を持つようになりました。

家にはピアノもあり、最初は遊び感覚で弾いていましたが、両親の薦めで先生について習うようになりました。それが直接的なきっかけです。あと6歳くらいの時初めて音楽会に連れて行ってもらったりしました。このようなことが音楽をやっていくきっかけになりました。

Q)その時はピアノ以外の楽器には興味は湧かなかったのですか?
【フェルナー】 むしろ私は楽器を創ろうとしていました(笑)。板に釘を打ちつけて、そこに糸やゴムを張りスケールで音が出るようにしたり、自分で楽器を創って遊んだりもしていました。
Q)初めてピアノで弾いた曲を覚えてらっしゃいますか?
【フェルナー】具体的な曲名は思い出せないのですが、右手のメロディだけで弾いた子供の歌です。それまでは、ただ鍵盤を叩いて音を出すだけの状態でしたが、ある日知り合いの方が家に遊びに来たとき、右手でメロディを弾くことを教えてくれたのです。それが最初に覚えた曲です。
Q)ピアノを習い始めて練習が辛くなって嫌いになることはなかったのですか?
【フェルナー】 まあ、今でもまれに練習したくない日というのはありますけれども(笑)、私は恵まれていて、本当に嫌いになったことがありません。特に子供の頃に就いた先生が、(もちろん厳しくてきちんと練習しなければならなかったのですが)とても子供に向いていた先生でした。毎日30分くらいでしたがリラックスした環境で、まるでゲームを遊ぶかのような感覚で、楽しくピアノを教えてくださいました。
Q)練習が進む過程で行き詰ることもあったと存じますが、壁にぶつかった時どのようにして乗り越えるのですか?
【フェルナー】 ええ、それはもう時間をかけて一歩づつ一歩づつ乗り越えます。それしかありません。
Q)フェルナーさんがプロのピアニストになろうと決心したのはいつ頃だったのですか、またきっかけのようなものがあったのでしょうか?
【フェルナー】 いえ、私の場合は、特にそういったきっかけがあったわけではありません。ずっとピアノを続けてきたその積み重ねの中で、幸運に恵まれプロのピアニストへの道を歩んだのです。16歳、17歳頃のことを振り返ってみますと、周りにいた学校の友人たちは「ソリストになりたい」「プロになりたい」というのがあったようですが、私は「プロのピアニストにならなければならない」と感じたことはありませんでした。
Q)もしピアニストになっていなかったら、なにをやっていたと想像されますか?
【フェルナー】 そうですね、私は数学や文学も大好きですし、いろんなことに興味があるので、なにになっていたのかいろんな可能性があって、まったく想像がつかないです。
Q)ブレンデルさんに師事をされてらっしゃいますね、指導は厳しかったですか?
【フェルナー】彼の教え方はとてもきめ細かいです。そしてより具体的で非常に集中して教えてくださいました。同時にとても面白い方でもありました。彼の教え方としては、横にピアノを置いて、そこに座り具体的に演奏して聴かせてくれるのです。講義のようにただ横から話すだけではありません。時には歌ったり、指揮をして、一緒になって取組み示してくださいました。
Q)ブレンデルさんから得たもので一番大きなものはなんだったのでしょうか。
アルフレット・ブレンデル
【フェルナー】大きく2つあります。
一つは音楽に対する一般的なアプローチの仕方になりますが、まず一番大事なことは、その「音楽」であり「作曲家」であるということです。「演奏家」と言うのは二の次なのです。「音楽」をきちんと尊敬して理解する、それを解釈して伝えるのが演奏家であって、やはり第1にあるのはまず「音楽」なのです。そういった音楽に対する姿勢をブレンデルから学びました。決して風変わりにあってはならず、あくまで「音楽」に対して同調する姿勢、誠実な姿勢で演奏していかなくてはならないことを学びました。
二つ目に学んだことは、曲を大きく全体として見ることと、細部を見ることのバランスがきちんととられていなければならないことを学びました。
象徴的な例をお話しますと、まずブレンデルはレッスンのはじめに、私に一曲全部弾きとおさせます。そして曲全体の解釈のことで気づいたところを指摘します。リストに巡礼の年第2年「イタリア」~ペトラルカのソネットという情熱的な曲がありますが、私がこの曲を弾いたときブレンデルはこう言いました。

「君は、まるで39度の熱があるように弾いているけれど、37度5分ぐらいで十分だから、そのつもりで弾きなさい。」

要するに音楽に没入しすぎてはならないという警告です。曲全体を見渡しているような冷静さが必要だということを指摘してから細部に関して丁寧にみてくれます。和音のバランス、音色、アーティキュレーション(おのおのの音の区切り方やつなぎ方)、フレージング(旋律線をフレーズに区切るときの手法)といった細かいところまでみていきます。全体把握と細部とのコンビネーション、バランス。その大切さをブレンデルから学びました。
Q)ハスキル国際ピアノコンクールに出場して優勝されましたが、このコンクールで得たものはなんでしょうか。
【フェルナー】このコンクールで得たものは、私にとって本当に重要なものだったと思います。まず私に可能性を広げてくれた点にあります。実際この後、続けて5つぐらいの協奏曲を重要な楽団と共演をすることにもなりました。いろんな機会を得ることが出来たこと、私にとって優勝した意味は大きかったです。あとこのコンクールは個人的にとても好きなコンクールでした。それは、音楽的な部分に重点が置かれている点と、そもそもこのコンクールはクララ・ハスキルが好んで弾いた曲がレパートリーになることが多いので、シューマンであったり、ベートーヴェン、モーツァルトといった私自身が好きな作曲家に取組める点です。そしてこのコンクールの方法です。第1次予選は審査員だけの前で演奏するのですが、第2次予選以降は公開制でコンサートのような形でコンクールが進められます。この点も良いと思っています。
Q)リサイタルの時と、協奏曲のように楽団と共演の時と、何か違いはありますか。
実際弾き方の違いとかそういうものではないのですが、コンサートに臨む姿勢というものは大きく異なります。リサイタルは一人で行うものですので、誰にも頼らず音楽をすべて自分一人で構築していかなければなりません。これはこれで難しさがあります。オーケストラとの共演は、また違った難しさがあります。室内楽を演奏する時のように指揮者や他の共演者の音を良く聴き、共同で一つの音楽を構築していく難しさです。それぞれに異なる難しさがありますが、喜びや恵みがありますので私はどちらも好きです。どちらかと言うと一人で行うリサイタルは、より厳しく難しいと感じています。
Q)これまで著名な指揮者やオーケストラと共演されてらっしゃいますが、特に印象に残っている方はいらっしゃいますか?
オーケストラとの演奏は繊細なバランスの上に成り立っているものでして非常に壊れやすいものなのです。中には指揮者が、オーケストラとは相性が合うけれどもソリストとは合わなかったり、逆にソリストとは相性が合うけれども、オーケストラとは合わなかったり、そういった非常に微妙なバランスが働くのです。それが、うまくいったとき皆が一つになって素晴らしい音が出来あがるのです。
そのような体験の中から特に印象深いものを挙げるならば、まずウィーン・フィルハーモニー管弦楽団との共演です。このオーケストラと共演できたことは非常に光栄に思っておりますし素晴らしい経験でした。そしてロンドン・フィルハーモニー管弦楽団です。このオーケストラとはここ15年ぐらい毎年1度は必ず共演しています。長いお付き合いがあり、心地よく演奏が出来るオーケストラの一つです。あと指揮者のケント・ナガノさんです。現在彼はモントリーオール交響楽団の指揮者でありますが、他の楽団の時にも共演しました。非常に相性の合う指揮者の一人です。彼とは今、ベートーヴェンのピアノ協奏曲の録音に取組んでいます。非常に意義深いプロジェクトに思っています。
Q)ベートーヴェンのピアノ協奏曲のプロジェクトに加えて今、東京始め世界各地でベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲演奏にも取組まれてらっしゃいますね。フェルナーさんにとってベートーヴェンと言う作曲家はやはり特別な作曲家なのですか?
もちろんです。他の作曲家もたくさん演奏しているのですが、今、自分にとって丁度「ベートーヴェンの時代」の到来なのかもしれません。
Q)ところでお休みの日はどのように過ごされているのですか?
趣味は多い方なのですが、音楽以外にも映画を見たり、劇場に行ったり、読書をしたり、絵画を見たり、他の芸術や文化にも興味があります。それと、何時間も練習が続いた後や、コンサートが続いた後は、「静けさ」も大切だと思っています。つまりなにもしないことなのですが、私にとって必要なことと思っています。
Q)先ほど映画も鑑賞されるとのことでしたが、ちなみに一番最近は何をご覧なったのですか?
スペインのルイス・ブニュエル(Luis Bunuel, 1900年2月22日 - 1983年7月29日)監督の映画「哀しみのトリスターナ -Tristana (1970)」です。主演のカトリーヌ・ドヌーヴがまだ若くそれほど有名ではなかった頃のものです。この映画にはほとんどBGMが流れないのですが、ショパンのエチュードをカトリーヌ・ドヌーヴが弾くシーンがあり、特に印象的でした。もちろん彼女が本当に弾いているわけではないのでしょうけど(笑)。
映画では、主にヨーロッパの古い映画などに興味があります。アメリカ映画ではチャールズ・チャップリン(Charles Chaplin, 1889年4月16日 - 1977年12月25日)が大好きでして、彼の映画は特に音楽の使い方が優れているように思います。ご存知のとおり、彼は自分で作曲もしていますし、それが非常に効果的に映画の中で使われています。私はそんな彼を深く尊敬していますし、彼の作った映画は大好きです。
Q)フェルナーさんが、音楽家で憧れている方とはどのような方ですか?
たくさんいるのですが、一番尊敬しているのは先生でもあるアルフレッド・ブレンデルです。またそのブレンデルの先生であったエドウィン・フィッシャー。あと1950年代のウィルヘルム・ケンプもピアニストとして本当に尊敬しています。指揮者ではウィルヘルム・フルトヴェングラーです。最近の方では、ピアニストのピエール=ロラン・エマールに憧れています。

ヴィルヘルム・ケンプ
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー
ピエール=ロラン・エマール
Q)最後にフェルナーさんが幸せを感じる時とはどういうときですか?
音楽が自ら演奏しはじめるときです。音楽家の仕事とは、常に音楽を向上させて、自分が音楽を理解していくことだと思っています。それは非常に時間のかかることではあるのですが、演奏を通じて音楽と長い時間向き合ってくると、ある時、音楽が「こうすればいいんだよ」と教えてくれる瞬間があるのです。そういう時というのは、自分で何か考える必要もありませんし、音楽をむりやりある方向に持っていこうとしなくて良いのです。音楽自ら自然に「こうしなさい」と導いてくれる瞬間があるのです。音楽が自分に降りてくる瞬間、この時に私は一番幸せを感じます。

~今日はリハーサルのお忙しい中、貴重な時間を頂き、そしてまたいろいろお話くださいましてありがとう御座いました。~

◆インタビュー後記

2月14日トッパンホールにおいてフェルナーさんのベートーヴェンピアノソナタ全曲演奏会の第1回目のコンサートが開かれました。その数日前、リハーサルの合間に取材の時間を頂き、お話を伺ってまいりました。大詰めの総練習で大変お疲れだったと察しますが、フェルナーさんは、終始朗らかに温かく迎えてくださいました。私と同世代なのですが、年齢以上の落ち着きを感じ、そしてお話を伺っていくにつれて、フェルナーさんの音楽を根底で支えているのは、その誠実さと真面目さではないかと感じました。虚飾のない正統的な音楽を目指す姿、それは時流に左右されない確固たる軸となり今後もフェルナーさんの創る音楽の強みになるに違いありません。
【古典派.com: インタビュアー大澤】

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プロフィール

ティル・フェルナー(ピアノ)Till Fellner, piano


ティル・フェルナーさん

1972年ウィーン生まれ。ヘレーネ・セド=シュタトラーのもとで学び、その後アルフレッド・ブレンデル、マイラ・ファルカス、オレグ・マイセンベルク、クラウス=クリスティアン・シュスターに師事。 彼が最初に国際的な注目を集めたのは、1993年に権威あるクララ・ハスキル国際コンクールにオーストリア人として初めて優勝したときである。1998年ウィーン・モーツァルト協会からモーツァルト解釈賞を授与された。

世界中の有名なオーケストラと共演を重ねているほか、ヨーロッパ、アメリカ、日本などの主要コンサートホールで演奏しており、各地の音楽祭にもたびたび招待されている。これまでに、クラウディオ・アバド、ウラディーミル・アシュケナージ、クリストフ・フォン・ドホナーニ、ニコラウス・アーノンクール、ハインツ・ホリガー、マレク・ヤノフスキ、サー・チャールズ・マッケラス、サー・ネヴィル・マリナー、ケント・ナガノ、ユッカ=ペッカ・サラステ、レナード・スラトキン、クラウディウス・トラウンフェルナー、フランツ・ウェルザー=メスト、ハンス・ツェンダーらと共演。室内楽では、ハインリヒ・シフと頻繁に共演しているほか、リサ・バティアシュヴィリとエイドリアン・ブレンデルとのトリオ、マーク・パドモアとのリート・リサイタルなどを行っている。

2006/07年シーズンにはモントリオール、パリ、ミュンヘン、ロンドン、ウィーン、ブダペストで、ケント・ナガノ、シルヴァイン・カンブルラン、フィリップ・ジョルダン、サー・ネヴィル・マリナー、ゾルタン・コチシュらの指揮者の下で協奏曲を演奏。そのほかにも、ハインリヒ・シフとのデュオ・ツアーや、ヨーロッパ、アメリカ、日本の各都市でのソロ・リサイタルなどを行っている。

2007/08年シーズンは、マズア指揮フランス国立管、マッケラス指揮フィルハーモニア管、ツァグロゼク指揮ミュンヘン・フィルなどと共演。2008年春には、ナガノ指揮モントリオール響とベートーヴェン協奏曲全曲の演奏・録音という長期プロジェクトを開始した。このほかのハイライトとしては、ヨーロッパとアメリカでのソロ・リサイタル、ヴィヴィアン・ハグナー、リサ・バティアシュヴィリ、エイドリアン・ブレンデルらとの室内楽、マーク・パドモアとのリート・リサイタルも引き続き行っている。

日本では、2008年12月より2シーズン全7回に渡るベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲演奏会を開始。このプロジェクトは、ニューヨーク、ロンドン、パリ、ウィーンなどの都市で同時に進行しており、いずれも非常に高い評価を得ている。
これまでに多数のCDを録音、2004年2月には「バッハ:平均率クラヴィーア曲集第1巻」をECMレコードよりリリース、09年4月には「バッハ:インベンション、フランス組曲第5番」の新譜がリリースされる予定である。

〈2009年〉

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ディスコグラフィー

【J.S.バッハ:インヴェンションとシンフォニア,フランス組曲第5番】
UCCE-2075(2009年4月22日発売)

J.S.バッハ:インヴェンションとシンフォニア,フランス組曲第5番

◆フェルナーの最新録音となる本作は、バッハの「インヴェンションとシンフォニア」に「フランス組曲第5番」をカップリング。バッハにおいても、ピリオド奏法や伝統的な解釈にとらわれず、自らのインスピレーションから生まれたピアニズムで聴く者を魅了します。

【J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻】
UCCE-2073(発売中)

バッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻

◆初のバッハ録音。旧約聖書にも喩えられるこの大作を、高度な技術を駆使しながら実に緻密に再構築しているのに、それを少しも誇示せず、サラリと自然体で弾き通している点に感服。現代的知性&感性が光るしなやかな「平均律」だ。

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